ハムジャーナル#64-JA6BI田縁OMその後の足跡
2010年 06月 29日
JA6BI田縁OMが、その後どのような製作活動に取り組まれていたのか、寡聞にして知る機会がなかった。が、先週、コメント欄でもお世話になっているJH1JYY OMからのご教示により、ハムジャーナル#64に再び熊本シティースタンダードが取り上げられていたことを知ったのである。
インターネットで検索すると、極めて幸運なことに、HJ #64を在庫している店があった。プレミアが付き、値段は当時の定価の2倍以上であったが、そのような些事は無視して、すかさず発注したことはいうまでもない。そして、丁度これを書いている今日、月曜の午前中に配達されたのである。それにしても、良い時代になったものである。インターネット時代以前には、このような絶版バックナンバーを入手することは、ほぼ絶望的であった。
ハムジャーナル#64は1989年の出版である。#44出版の3年後である。特集「ユニット化によるハム用機器の製作」の中で、「SSB変復調回路ユニット」と銘打った、新たなSSBジェネレーターを含む種々のユニット(RFアンプユニット、低周波電力増幅ユニットなど)が詳述され、それらを使ったトランシーバーの製作が記述されている。特集の副題には「熊本工作研究会総力製作・編集」とある。
「SSB変復調回路ユニット」の回路をみてみる。
IF増幅素子には2SK241が使われている。送信IFは1段、受信IFは3段である。FCZコイルと2SK241を組み合わせた場合、IF2段では明らかにゲイン不足になるので、IF3段構成としたことが良く判る。2SK241などを使うRFアンプでは、B+をコイルのコールドエンドではなく、中点に供給すると(タップダウン)動作が安定する。JA7CRJ千葉OMが著書中で記述されているノウハウである。実際、自分で組み立てた2SK241高一中三のIF増幅回路はFCZ 9の中点にB+を供給する設計としたところ、全く発振することなく安定に高感度が得られた。一方、この「SSB変復調回路ユニット」回路では、B+をコールドエンドに供給しながら、負荷タンク回路をHigh Cとして負荷インピーダンスを下げる方向に調整することにより、動作の安定化を図っている。
フィルターには7.8、9、10.7、11.2735Mcが使用可能と謳ってあるだけではなく、各フィルターと組み合わせて使うべきコイル、コンデンサーの値も一覧表で示されている。VXOコイルを除くコイルは全て市販のFCZコイルが指定されている。
初代ジェネレーターと同様に1個のバラモジを送受に兼用し、RF信号はダイオードスイッチで、AF信号はリレーで切り替えている。但し、リレーには初代で使われたナショナルNR HD 5Vではなく、オムロンのG2Eが使われている。この時、既にNR HDは入手出来なくなっていたのであろうか。バラモジを共用することにより、送信時にキャリアーのバランスアウト調整をすることにより、自動的に受信時のバランスもとれることが指摘されている。
局発(BFO)に2つのVXO発振回路が搭載されており、ダイオードスイッチによりUSBとLSBが選択できる設計となっている。局発の電圧安定化には、それまでツェナーのRD6Aが使われていたが、このユニットでは3端子レギュレーター78L08が起用されている。電圧安定性は78L08の方が優れている。
リングデテクターのAF出力をトランジスター1石で増幅している。これは初代、2代目共にみられない設計である。初代ジェネレーターによる21MCトランシーバーでは実際にAFゲイン不足を経験したが、AFゲイン不足のトラブルを熊本工作研究会のメンバーも実際に経験されたのであろう。
AGC回路は増幅型ではないが、時定数を470KΩ×1μFに変更している。47KΩと1μFの初代・2代目よりはフィーリングが改善していると推察される。マイクアンプはディスクリートのトランジスター2石直結2段増幅回路になっており、741などのICは使われていない。この理由は良く判らないが、ICでは発振などのトラブルが起きやすかったのだろうか。それとも、回路の理解を容易にするための選択であろうか。マイク入力端子には回り込み防止のための0.01μFコンデンサーが装備されている。初代のみならず、2代目もマイク入力端子はオープンで、0.01μFを外付けする必要があった。
ミクサーユニットを見て、驚いた。ミクサーはDBMを使った回路で、2代目と共にCQ誌に発表されたコンバーター回路と本質的には同じなのだが、DBM後に共振回路4段のバンドパスフィルターが挿入されているのである。しかも、「4段のフィルターが必要なのは50Mcと144Mcのときだけである」と注釈が付いている。
昨日の日曜日、自分の50Mc SSBトランシーバーを再調整する過程で認識した局発漏洩による送信スプリアスの問題を、当時、熊本工作研究会のOM諸氏もきっと経験されたのであろう。田縁OMが4段のBPFを投入することにより、このトラブルに対応されたことが手に取るように判るのである。
自分の50Mc SSBトランシーバーでもDBMダイオードをバランスが良いとされている1SS88に換装し、LO注入レベルを適宜調整した後は、コンバーター基板送信出力にFCZ 50相当トランスを使った4か5段のバンドパスフィルターとポストアンプを挿入するのが、田縁OMの手法を踏襲する対処方法かと考えている。
何しろ、今日の午前中に届いたばかりなので内容を精査するには至っていないが、これだけでも田縁OMが、一度世に送り出した2代目ジェネレーター・トランスバーターのどこに問題を捉えられ、どう対処しようとされたかの一端を垣間見ることができ、感無量である。
このような本が出版されていたという貴重な情報をご教示下さっただけではなく、当時の貴重なフィルターまで譲渡して下さったJH1JYY OMには深謝である。
by fujichromeR100 | 2010-06-29 13:11 | 熊本シティースタンダード | Comments(4)
IF3段のバージョンはHJ誌の他、秋月の店頭でも販売されていた、熊本工作研究会会報でも発表されたのを見た記憶があります。
会報はFCZ誌の様な感じでしたが、内容は濃かったと思います。
(今思うと取っておけば良かったですね)
会報に載っていたパーフェクト無線に、記事の基板を何度か注文した事があります。
(その時、キットとしてT-ZONEから発売されたFMトランシーバーは今もありますので、今度日記にアップしておきます)