UW3DIトランシーバー - ソ連時代の伝説のトランシーバー
2018年 01月 11日
1991年にソ連邦が崩壊するまで、ソ連におけるアマチュア無線の実態を西側で詳しく知ることはできなかった。
ソ連時代はアマチュア無線が盛んで、多くのUゾーンの局がアクティブであった。CWの局にはチャピリを伴う独特のトーンで出ている局が多かった。UAΦFFP局は択捉島から出ていて、Uゾーン特有のチャピるトーンであった。SSBの信号にも癖があり、同調し難いSSBを送信する局や、スプラッターしている局も多かった。
当時、「鉄のカーテン」の向こう側にいたソ連のアマチュア局の実態を紹介した貴重な報告が、1978年頃のCQ誌に、JR1コールの津久井OMという人により報告された。
津久井OMはハバロフスクのアマチュア無線を統括する無線クラブを訪問し、現地のハムとアイボールQSOをし、個人ハムのシャックも訪れてその様子を紹介された。また、ソ連のハムに使われている「UW3DI」というトランシーバーを回路図と共に紹介された。
当時のソ連でハムになるためには、各地域にある無線クラブに所属し、SWLから始めてクラブ局でオペレートの経験を積みながら個人局の資格を取得し、トランシーバーを自作しなければいけなかった。ソ連のハムは西側のリグを手にすることができなかったのである。
UW3DIはオールバンドのSSBトランシーバーである。これを自作するというのだから、当時はソ連のハムは技術が高いものだと関心したものである。
当時、ソ連からの情報は非常に限られており、UW3DIの詳細を知ることはできなかった。1986年にハバロフスクを訪れた際、無線クラブを訪問した。そこには真空管式UW3DIの残骸があったように記憶している。無線クラブには軍用と思われる受信機があり、14McでYBの局がCWで聞こえた(この時の訪問記はCQ誌1986年12月号に掲載されている)。
最近調べてみると、インターネットにもYouTubeにさえも、UW3DIの情報が沢山出ていることがわかった。今更ながら、ソ連が崩壊したことを実感される。
UW3DIは、モスクワのユーリー・クドリャーツェフ(Юрий Кудрявцев )氏が設計・製作したオールバンドSSBトランシーバーである。1969年に開催されたDOSAAF(準軍)の無線機器コンペティションに全真空管式のUW3DI(UW3DI-1、15球24ダイオード)が出品され、無線通信機器部門で第一席となった。これにより、1970年の雑誌"Radio"に詳細な解説記事が掲載された。続いて、ハイブリッド方式のUW3DI(UW3DI-2)が1974にRadio誌に発表された。非常に古い設計であることがわかる。
UW3DIは3.5、7、14、21、28(28,0- 28,5 、28,5-29 MHzに分割)のSSB、CWトランシーバーであり、全真空管バージョンは100W、ハイブリッドバージョンは60W出力である。
ブロックダイアグラムである。
https://translate.google.co.jp/translate?hl=en&sl=ru&u=http://msevm.com/hamradio/uw3di/&prev=search
500Kcのメカフィルを遣うフィルタータイプである。VFOは5.5-6Mc、IFは6-6.5Mcとなっている。これを第2ミクサーで目的バンドに変換するダブルコンバージョンタイプである。受信部はいわゆるコリンズタイプのダブルスーパーとなる。なお、VOXが設けられている。
真空管はソ連独特の品種であり、規格は全くわからない。
真空管式UW3DI-1の回路図である。

受信回路にはAGCが無く、Sメーターも見当たらない。UW3DI-1の改造情報として、AGCとSメーターを付加する回路を示すページがあった。
ハイブリッドとなったUW3DI-2にはAGCもALCも装備されたようである。
当時、UW3DIの外観などすらよくわからなかったのだが、現在ではインターネットで多くの写真を見ることが出来る。


UW3DIの構造がよくわかるYouTube動画である。
https://www.youtube.com/watch?v=fRulo_b8ky4
多段のロータリースイッチが使われている。こういう特殊な部品は無線クラブを通して入手できるシステムが確立されていたのであろう。
UW3DIを使い、交信するシーンである。
https://www.youtube.com/watch?v=QNCVB22eiWk
パネルにUW3DI-1 UV9CCDと記されている。全真空管式のUW3DI-1のようである。動画の3分40秒付近で、RZ9UGWが20mで出すCQを、オペレーターがコールする。オペレーターのコールはRZ9CQQ、名前はアンドレイ、住所はグロムカと聞こえる。RZ9UGWはRZ9CQQに59のレポートを送っている。
YouTube冒頭のシーンからみると、RZ9CQQ局長は高層マンションに住んでいるようであり、デスクにはフラットスクリーンのデスクトップパソコンがある。現代のロシアで撮影された動画である。全真空管式のUW3DI-1が今でも使われていることを、この動画は示している。
動画でまず気付いたのが、UW3DIの受信音の良さである。なかなかFBな受信音である。また、聞く限り、日本製のSSBトランシーバーでダイヤルを回したときのSSBの聞こ方と違いは無い。
「UW3DI- the Timeless Transceiver」
http://www.antentop.org/006html/006_p81.htm
によると、1970年代はソ連のハムの75%、1980年代は60%、1990年代には40-50%がUW3DIを使っていた。21世紀の現在では、日本製リグの中古品、軍用品の台頭により、僅かに25%のハムがUW3DIを使っているに過ぎないとしている。
しかし、現在においても1/4のハムが1970年代に設計されたリグを使用していることは、むしろ驚愕すべきことであろう。
UW3DIがこのように広く使われることになった理由は、回路のシンプルさ、再現性の高さ、調整の容易さであるとしている。現在に至るも、UW3DIに匹敵する設計のトランシーバーはロシアにおいて現れていないとしているのである。
これは、資本主義経済圏において、各メーカーがしのぎを削って高性能の無線機を開発し続けてきた歴史とは全く違う歴史を辿った、旧共産圏のロシアならではの事情でもあるといえよう。
1970年代といえば、JAではTS520やFT101が登場した時代である。現在のJA製トランシーバーは、これらの古典機からどれ程進化したかを考えると、旧ソ連社会と西側社会との違いが改めて実感される。
UW3DIを設計・製作したЮрий Кудрявцев (UW3DI)と、UW3DIトランシーバーである。




UT7UZAのサイトのこの記事は、UW3DIトランシーバーと開発者のユーリー・クドリャーツェフに対する賞賛の言葉で満ち溢れている。
https://translate.google.co.jp/translate?hl=en&sl=ru&u=http://ut7uza.kpi.ua/node/53&prev=search
記事によると、ユーリー・クドリャーツェフ氏はカナダに在住しているとのことである。2009年にモスクワに帰省した際の写真が掲載されている。


ヤエスもトリオもなく、無線機は全て手作りしないとアマチュア無線ができなかったソ連ならではの歴史であろう。
by FujichromeR100 | 2018-01-11 23:13 | UW3DIトランシーバー | Comments(0)