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ICB770の新技適基準適合化改造に必要な部品と予算、必要最低限の測定器   

2020年 05月 21日

SONYのICB770を2台新技適基準に適合するように改造し、その改造方法にほぼ再現性があることを確認できたところである。
https://fujichrome.exblog.jp/31145991/
https://fujichrome.exblog.jp/31157421/

ICB770の新技適基準適合化改造に必要な部品と予算、必要最低限の測定器_f0205744_12542085.jpg
改造には定K型4段LPF、バターワース型4段HPFとTA2011S マイクアンプ基板を組み立てる必要がある。また、ケミコン全交換と2SC710交換、Sメーター調整のオーバーホールも行うほうが良い。

これらの作業に必要な部品代をざっと調べてみた。

LPF
T25-6 4個 @¥90 秋月
100pF 2個 ¥100/20個 秋月 積層セラミック
220pF 3個 ¥100/10個 秋月 積層セラミック

HPF
T25-6 4個 @¥90 秋月
220pF 3個  秋月 積層セラミック
68pF 2個 @¥100/10 秋月 積層セラミック
今回の改造機のHPFにはT37-6トロイダルコアを使用したが、一回り小さなT25-6コアで十分である。

TA2011Sマイクアンプ
TA2011S 1個 @¥240 サトー電気
TA78L005AP  1個 @¥50 サトー電気 
抵抗 1/4W S1 2.2k, 1M @¥15 サトー電気
ケミコン10μF 50V 6個 @¥15 サトー電気
ケミコン 47μF 50V 1個 @¥20 サトー電気
0.01μF 50V 3個 ¥100/10個 秋月 積層セラミックコンデンサー
半固定ボリューム 3362P 10kΩ 2個 @¥40 秋月

その他、改造に必要な部品である。
同軸0.8D2V 5m ¥500 サトー電気
シールド線2φ 外皮ゴム系(耐熱高級) 5m ¥460 サトー電気
ピンヘッダ 1x40 ¥35 秋月
LPF・HPFランド法用生基板
TA2011S基板用ユニバーサル基板
配線材少々

ビスナット少々

ピン付きトルクスネジと専用レンチ

オーバーホール、Sメーター調整等に必要な部品である。
ケミコン18個(全19個中C32は撤去なので18個)サトー電気
 50V 22μF以下 ¥15
 50V 33μF   ¥16
 50V 47μF   ¥20
 50V 100μF   ¥30
 50V 220μF   ¥40
2SC2347 1個 @¥70 455kHz IF 1段目  サトー電気
2SC2669 3個 @¥80 第1 MIXer、第2 MIXer、455kHz IF 2段目 サトー電気
2SC380TM-Y ¥120/20 他の2SC710交換用  秋月
Sメーター調整等用抵抗 1/4W S1 @¥15 サトー電気
ドライブ調整用積層セラミックコン C55等 ¥100/1パック 秋月
秋月電子の値段は税込み、サトー電気の値段は外税である。

技適試験関連の費用である。
技適試験費用 1台分 ¥36,000
宅急便送料 往復分

なお、規定を満たさない項目があり試験不合格になると手数料の36,000円が没収されて一からやり直しになるという大きな誤解があるようだが、実際はそのようなことはない。不合格の場合、どの項目が不合格かを教えてくれるので、一旦送信機を送り返して貰い、その部分を手直ししてから再試験を受けることになる。その場合、追加の手数料などは不要であった。これまで自作機3台、ICB770 2台の技適試験を受けた中で、自作機1台目はAFフィルターICのMAX295のクロック信号によるスプリアスと受信時の不要輻射規定の逸脱で不合格となり、ICB770 1台目は受信部の不要輻射規定の逸脱と、恥ずべきことにパワーオーバーで試験不合格となってしまった。どちらも手直し後の再試験により合格となった。噂によると、パワーオーバーにより複数回試験を受け直した例もあるらしい。通常は一度の手直しで調整は終了するであろう。

個体の状態により更に必要な部品が発生する可能性はあるのだが、費用の概要はこのようなものである。また、施す処置は基本的にどの機種でもほとんど同じであるはずなので、掛かる予算はどの機種でも大同小異であろうと思われる。

次に、調整に最低限必要な測定器である。

トリガー式 オシロスコープ 27MHzで使用可能なもの 中古 山陽電子商会他
オシロスコープ用プローブ 秋月
低周波発振器 10dB刻みアッテネーター付き 中古 山陽電子商会他
周波数カウンター
 VICTOR 周波数カウンター VC2000【10Hz〜2.4GHz】(新品9680円 Amazonにて)
電力計 SWR計も可

以上は必須である。オシロはアナログ方式が波形観察が容易である。27MHzで使用可能か問い合わせて確認しておく。低周波発振器は10dBステップのアッテネーターを内蔵しているか確認が必要である。周波数カウンターは中古品の値段とVC2000の値段がそれ程違わないので最高測定可能周波数が2GHzにも及ぶVC2000を買う方が得である。電力計はバードなどの高級品があれば申し分無いが、SWR系付属パワーメーター+50Ωダミーロードで十分である(正確であれば)。50Ωダミーロードは100Ω 2Wの金属皮膜抵抗を2本並列接続した自作品で十分である。以上の測定器は中古品の値段もこなれていて入手は難しくない。ICB770の新技適基準適合化改造だけであれば、以上の測定器で十分対応可能である。

なお、当局はスペアナを未だに所有していないのだが、自作機3台とICB 770 2台の新技適試験用調整をSSGプラス上記の測定器だけで行い試験をクリアーした。


新技適基準に適合させるためには、次の対応を行う。
①周波数カウンターで送信周波数を実測して偏差が規定以内か測定し、必要に応じて調整する。
②電力計で出力が規定範囲にあるかどうかを測定して必要に応じて調整する。
③LPFを接続して高調波を抑制する。
④HPFを接続して局発成分の漏洩を抑制する。
⑤TA2011Sにより過変調を防止する(占有帯域幅規定に適合させる)。

⑤の調整法である。送信機出力に50Ωダミーロードを接続し、その両端にオシロのプローブを接続する。マイク端子に低周波発振器を接続し、1,250Hzサイン波を印加する。オシロに波形を描画させ、変調度が約60%となるように低周波発振器の出力を調整する。その状態からアッテネーターを10dB抜いても過変調にならないようにTA2011の出力レベル調整半固定抵抗をセットする。アッテネーターを20dB抜いても過変調にならないことも確認する。なお、①の場合もダミーロードの両端に周波数カウンターを接続して送信周波数を測定する。

要するに過変調にならないように調整できればいいだけなので、この調整にスペアナは必須ではなくオシロスコープで調整可能なのである。

以下は、あれば便利な測定器である。
・スペアナ RIGOL 1.5GHzスペクトラム・アナライザ(トラッキング・ジェネレータ機能付),DSA815-TG (新品¥192,191 Amazon)
 スペアナが無いと何ができないかといえば、受信時の不要輻射レベル(規定4nW以下)が実測できないのである。しかし、ICB770に関しては、受信時の局発漏洩を激減させる方法をフクオカAB182局が2013年に公開されている。
https://www.rca-j.org/giteki/ab182/h25770.htm
また、ヒロシマAH807局がその具体的手法について図解入りで解説して下さった。
https://twitter.com/PanzerBlitz807/status/1252560636837416961
バターワース4段HPFとこの手法を併用すれば、受信時の不要輻射規定は問題なくクリアーできることを今回の改造で確認した。

・SSG(標準信号発生器)  中古 山陽電子商会他
 SSGが無いと受信機の感度確認とSメーターのS9調整ができないことになる。しかし、
https://fujichrome.exblog.jp/31145991/
https://fujichrome.exblog.jp/31157421/
に示したようにMIXerの石2段と455kHz IF 2段目の石を2SC2669に、455kHz IF 1段の石を2SC2347に換装し、Sメーターに直列に接続されているR12を47Ωに換装した上で、無信号時のSメーター指針の位置がS1の3mm程度左に来るようにR16のバイアス抵抗を調整すれば、あとは成り行きでも実用上差し支えない状態になるであろう。改造前に普通に交信できていた個体であれば、これで十分と思われる。受信部の各トランスのコア調整は、ノイズレベルを指標にして十分可能である。

2020年6月11日追記-近接スプリアスの問題と原因・対策-
日頃から情報交換をしてお世話になっており、現在鋭意ICB770 2台の技適改造に取り組まれているヒロシマAH807局が、2台のうち1台に近接スプリアスが多数発生するという問題を指摘された。
https://twitter.com/PanzerBlitz807/status/1266648889689432065
ICB770の10MHz台送信局発回路と2SK23Aを使う送信MIXer回路である。

ICB770の新技適基準適合化改造に必要な部品と予算、必要最低限の測定器_f0205744_20473381.jpg
16MHz台の局発回路は共振回路を負荷とし、その2次側リンクコイルから出力を取り出して2SK23Aのソースに注入している。10MHzと16MHzを混合するだけでは指摘のようなスプリアスが多数発生するはずがないのである。

10MHz台の水晶発振回路は、上記回路図のとおり無調整コルピッツ型発振回路である。この回路は出力波形が歪むことが知られている。以前組み立てたVK3YEのKnobless Wonder SSB TRCVRのキャリア発振にもこの無調整コルピッツ型水晶発振回路が使われており、その出力波形はこのように酷く歪んでいた。
ICB770の新技適基準適合化改造に必要な部品と予算、必要最低限の測定器_f0205744_20532913.jpg
また、この回路では出力電圧のPEPがVccを上回ることも知られている。

これらのことから、10MHzと16MHzを混合しただけでは現れるはずが無い近接スプリアスが多数発生している原因は、10MHzの局発の波形が歪んで高調波を多数含んでいることと、局発の電圧(PEP)が高すぎてMIXerの2SK23Aがオーバードライブになっていることの2つが理由であろうと考えられた。

この対策は、局発の波形を正弦波に近づけて歪を減らすことと、MIXerへの注入電圧を減じることである。

調べてみると、コルピッツ型無調整発振回路の歪を減らすことを目的として詳細な実験を行った結果を発表しているサイトに行き当たった。
http://www.takatoki.justhpbs.jp/garakuta/garakut2/hassin/hassin.html
まさに、今回の近接スプリアス問題の解決のために知りたいことが全て記載されているサイトであった。試作回路で、バイアス回路を固定バイアスから電流帰還バイアスに変更し、動作電流を減じて出力を落とすと出力波形が正弦波に近づき、高調波が激減する様子が示されている。

ICB770の発振回路は固定バイアス+エミッタ抵抗(R69)となっている。これを電流帰還バイアスに改造することも可能であるが、この回路ではエミッタ抵抗のR69を増してコレクタ電流を減らすことにより動作レベルを落として調整するのが一番簡単であろうと思われる。

その後、ヒロシマAH807局がMIXer周りの回路についてこれ以上検討する余地が無い程詳細な検討をされて、その結果を公表された。
https://twitter.com/PanzerBlitz807/status/1268516902537539584
https://twitter.com/PanzerBlitz807/status/1268522101184421888
https://twitter.com/PanzerBlitz807/status/1269288959332331521
https://twitter.com/PanzerBlitz807/status/1269550412253720578

その結果によると、R69を3.5kΩとすること、又はC76を68pFにすると近接スプリアスが最小となるとのことである。

なお、その後ヒロシマAH807局はお手持ちのICB770更に1台のスプリアスを確認された。改造を全く施していない状態である。
https://twitter.com/PanzerBlitz807/status/1270699742197018624
驚くべきことに、この個体では近接スプリアスらしいスプリアスが全く認められなかった。

結局、ヒロシマAH807局が所有する3台と当局が手掛けた2台、計5台のICB770のうち、4台は近接スプリアスに全く問題が無いことがわかったことから、問題が出た個体が例外的存在の可能性が高まった。

スペアナなしで調整して技適試験を受け、万一近接スプリアス規定を逸脱して不合格となった際には、ヒロシマAH807局の詳細な検討結果を受けてR69を3.5kΩとする、又はC76を68pFにすることにより対応可能と思われる。

追記ここまで。


-・・・-

技適試験の費用はアマチュア無線の送信機のTSSによる保証手数料と比較するとかなり高額ではあるのだが、個人でも負担できないことはない額ではある。とはいえ、これがもう少し手頃になると助かるのだが。部品代は水晶の特注・交換が必要ない限り、それほどの金額ではない。なお、機種が変わっても施す処置はほぼ同じはずなので、機種により掛かる費用が極端に大きく異なることはあり得ないと思われる。

ICB770の技適試験をクリアーするだけであれば高価なスペアナとSSGは必ずしも必要無い。但し、これを機会に無線機関連の電子工作に取り組んでみようという計画がある場合には、手持ちの測定器は多いほど楽しみの幅が広がるのは事実である。特に受信機を自作して感度を評価する場合、SSGは必須となる。スペアナの応用範囲は非常に広く、これのあるなしでは自作の楽しみと深みに雲泥の差が出る。

新技適基準に適合させるためには、針の穴を通すようにシビアで高度な調整技術が必要と誤解されているが、ICB770に関しては2台の改造過程を紹介したとおりに、送信周波数偏差と出力が規定以内であれば、再現性のあるLPFとHPFを付加し、TA2011Sにより過変調を防止さえすればよいだけである。実際はかなりいい加減にみえるような方法で十分なのである。電子工作の経験のある人であれば誰にでも可能な内容である。自作機についても難度は同じ様なものであった。

ICB770は「CB無線機」のイメージを象徴するリグであり、多くのマニアにとって少年の日々の情熱・憧憬・感激・興奮の記憶を想起せしめる、他に替え難い、特別な意味を持つ無線機であるに違い無い。また、改造後の明瞭で了解度が高い送信音の素晴らしさは現在でも一線級であることがわかった。
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これまでに示してきた方法を参照しながらオーバーホール・新技適基準適合化改造を施せば、感度は大きく改善され、この無線機を末永く使えるようになる。電子工作の経験がある方には、是非自ら取り組んでいただきたいと思う。




by FujichromeR100 | 2020-05-21 20:29 | 合法CB | Comments(6)

Commented by JL7KHN/ミヤギKI529 at 2020-05-22 21:57 x
こんばんは。
ICB-770技適化技術の一般化があっさり出来てしまった事に、大変感服いたしました。
私の時は、徹頭徹尾手探り状態で取得しましたが、その時に、この記事を拝見したかったですhi。
仰る通り、技適化自体は決して難しく無いと思います。この記事を参考に、沢山の770が残ってくれる事を期待しております。
Commented by FujichromeR100 at 2020-05-23 13:14
コメントありがとうございます。私は石丸さんが2013年以前に公表された考え方を踏襲して自作機の製作と770の改造を行ったに過ぎません。石丸さんは全ての技術を誰に対しても惜しげもなく公開されて同じマニアの手助けとなることに労を厭わない素晴らしいOMと尊敬しております。これは、アマチュア無線の国内の自作派、Wの自作派が尊重する「Share」を尊ぶ姿勢と軌を一にするものであり、私も同じ考え方で自作を楽しんでいます。皆さんの参考となれば幸甚です。
Commented by かわはら at 2021-04-08 08:45 x
初めまして。興味深く拝読しました。
私はCB無線の初心者で、現在ICB87Rを取得し
楽しんでいます。
近々、ICB770を新たに取得予定ですが、せっかく
なら長く楽しみたいので新技適対応としたいのですが、
お願いすれば受けて頂けるのでしょうか。
よろしければ金額も含め返答頂ければ幸いです。
よろしくお願い申し上げます。
Commented by FujichromeR100 at 2021-04-09 21:08
かわはら様
はじめまして。私もCBは2018年に始めて自作してやりはじめた初心者です。最近、総務省が旧技適の無線機も当分使用可能にするという方針を公表して現在パブコメ中です。恐らく、パブコメ終了後にその方針が確定するはずですので、手に入れられた770はそのまま長く使えるはずです。

私自身は新技適改造を請け負うことはやっておりません。この2台は自分の技術的な興味と勉強のために手がけたもので、このプロジェクトは終了しました。

状態の良い個体を入手されて、そのままお使いいただいて当分大丈夫なはずですので、お楽しみください。
Commented by かわはら at 2021-04-12 15:53 x
ご丁寧にご返答頂きありがとうございます。
先に取得しているICB87Rは今年に入りアタックさん
に依頼して新技適を通りA87Rとなりました。
新技適化後の最初のEスポシーズンであり楽しみにして
いるところですが、ハンディ機以外のリグが欲しくなり
ICB770の取得を検討中ですが、ご回答にありましたように
当面は取得後もそのままで楽しんでみます。
ただいずれ新技適対応が必要な時に、依頼を受けて頂く
方がいなかったら使えなくなる心配があるのですが、
受託していただける方がいらっしゃるのかどうかが
不安なところです。
どうなんでしょうね?
Commented by FujichromeR100 at 2021-04-12 20:49
総務省の文言を見ていれば、新技適の強制移行は事実上棚上げにしてこのままうやむやになるように感じます。

新技適改造をしてもらう際には、770の状態が様々であることも踏まえて、新技適をクリアーするだけではなく、受信感度の向上など性能向上を実現できる技術を持つ方を探す必要があるでしょう。基準はクリアーしたけれども感度が下がり飛ばなくなってしまうということもあったようです。また、金額的にも良心的な方を探すことも重要でしょうね。

しかし、当面は現状のままで使えることは確実と思います。

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